危篤の祖父の

祖父が危篤になったのでバイトを早退し病院に向かった。

休憩中に家族のグループラインを見たから気付けたものの、そうでなければ21時まで祖父に会うことはなかっただろう。

向かうまで電車に乗っていましたが、涙がジワリと出る瞬間ですらバイトを早退できて嬉しい気持ちがうっすらとこころにあり、自分にガッカリしていた。

ガッカリしながら救命の待合室に行くと、母とふたりの叔母と年下の従妹が居り、皆一様に涙目だったので、わたしもボロリと泣いてしまう。

待合室には他にも十数名の人間が居り、簡易ソファーにうずくまっている人や所在無さげな人・カラ元気を起こす人など様々だった。たくさんの人がいて良かったと思った。人がいるのはいいことだと思った。

処置室に案内されると、顔の膨れた祖父がいた。

祖父は競輪場で倒れていたらしい。

賭け事の好きな祖父らしいはなしに思わず笑ってしまう。

祖父の腕に触るとぬるく、しかし冷たく、やわい皮膚だった。昔触った祖父の温度を思い出そうとしたけれど、思い出せなかった。

祖父を囲んで担当医師と話をする。叔母が何度も身のない質問をするので、担当医師が呆れていくのがわかる。一緒にいて羞恥する私、そんな私を羞恥する私。

母は母で、いつも怒鳴りつけるばかりの祖父を優しく甘えた声で呼びなで続けるものだから、気持ち悪く思った。またわたしはわたしを嫌悪しなければならなかった。

入院することになった祖父が器具などを取り付けなければならず、一時間ほど待つ。

その間に祖父の姉とその夫、祖母の弟・妹、祖父の友人が来てくれ一族総出である。14人がかけつけたので待合の長椅子3つが全て埋まってしまう。私たちが待っている間も搬送されてくる人は来るし、付き添いの人も来る。その方々はベット周りに案内されているようだった。申し訳なく思った。

母が弱気になりずっと涙をこらえながら話すものだから、私は強気になってきて、足を広げ、肩肘をつき、男勝りに話した。自分を大きく見せようとしている。親族が集まるとその世代の長子はそうなりがちである。わたしは孫世代の長子であるので。

そんなわけで親族会議が始まったのでわたしは早々に飽き、従妹と漫画のキャラクターの話をして過ごした。

その後祖母を迎えに行ったり従姉が駆けつけたりといろいろあった。

20時半頃に今日最後の面会をする。救命病棟という場所。

入った瞬間、明るいなと思う。清潔な匂いがする。部屋が広くとられており、開放的である。もっと重く張り詰めているんだろうと思っていたので拍子抜けしたし、祖父も死なないんだろうと思った。

処置室で見た頃より呼吸も大きく、また呼吸の乱れによる痙攣のような動きも大きくなり、声かけに目が反応したりしていたので、泣いた。もう一度死なないんだろうと思った。

(家に帰って夕飯を食べる。昨晩祖父の作った牛肉のスープ。祖父は料理が上手い。食べながら、死なないでくれと祈った。)